本研究は, フランスの哲学者ブリュノ・ラトゥール(Bruno Latour)の思想を手掛かりに, 現代の科学技術を哲学的に捉え直すための新たな視点を探るものであり, 平成27年度からの三年計画で進められた。初年度の平成27年度は, ラトゥールの思想についての理解を深めることを第一目標としつつ, 同時に, ラトゥールの科学論と何らかの接点のある様々な思想の理解に努めた。この過程で, 特に金森修に注目した。二年目である平成28年度は, 初年度の研究を更に推し進め, ラトゥール自身の哲学のより包括的な理解に努めるとともに, 広く科学史, 科学哲学, 科学社会学についての理解を深め, 科学を巡るより広い思想的文脈の中にラトゥールを位置づけて, 彼の思想を相対化しつつ, その独自性をより良く理解できるように努めた。この過程で特に, 一方で科学技術を支える価値観の歴史的変化に注目し, 他方でそれと連動する形で, 科学についての諸思想の変遷に注目した。また, ラトゥールの思想の哲学的な一貫性と射程の広さについても確信を深めた。三年目である平成29年度は, ラトゥール哲学の内在的理解と科学技術論の文脈的理解の両方をより精緻なものにすることに努めると同時に, 前年度に多くの時間を割いたラトゥールの著作一点の翻訳を完成させて出版した。この著作では, 科学人類学と呼ばれるラトゥールの初期の思想が, 物神崇拝や聖像破壊というより文化人類学的な主題を通じて展開されており, 翻訳の作業の中で, いかにして彼の科学論が宗教, 芸術, 政治についての思想へと射程を広げるのかを研究した。それと並行して, 平成29年度は, ラトゥールの初期の主著であるパストゥール論についての研究と翻訳作業を開始した。この著作では, ラトゥールの哲学的な立場が比較的直接的に表現され, その哲学を踏まえた方法論に基づいてパストゥールの微生物学が分析されている。科学社会学の古典でもあるこの著作の翻訳作業を通じて, ラトゥールの科学技術論の理解を更に深める作業が継続された。
This year, I finished my translation of Bruno Latour's book : Sur le culte moderne des dieux faitiches, suivi de Iconoclash (On the Modern Cult of the Factish Gods, followed by Iconoclash), in which Latour's thought called anthropology of sciences is expressed in relation to themes closer to the anthropology in the traditional sense as fetishism or iconoclasm. Through this translation I have shown how his philosophy of science broadens its scope to become a philosophy of religion, art and politics.
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