近年、地方都市の人口減少に伴う地域経済の低迷が深刻化してきている。そこで注目されている一つの政策として観光が挙げられる。観光の一つの有効性として、人を呼び込むことができ、その効果として外需の拡大を図ること、関連する企業にまで広がる経済波及効果の大きさを図ることが可能性としてある。この有効性に期待し、全国各地で大河やドラマのロケ地巡り、エコツアーなど地域の特色を活かした観光政策が行われている。しかし、その一方で、かつては一世を風靡した観光地であっても、衰退化していく都市は多く存在している。果たして観光客にとって魅力的な観光地となっているのだろうか。実際に観光地と魅力を関連づけた先行研究は存在するものの、それを政策に反映していくものはない。
本研究では、システマチック・各ステークホルダーの要求を満たすことを前提とし、地方都市小田原を事例とし、全体として観光客にとって魅力となる観光システムのデザインを目的に掲げた本研究の目標としては、観光に携わる各ステークホルダー間の意識の相違の解消による、魅力的な観光地を目指した観光政策の企画立案までの観光システムデザインを行う。
小田原市の現状と観光の取り組みを主にヒアリングなどで把握した。次に、より実現性のある政策をデザインするため、各ステークホルダーの立ち位置を把握するためにもステークホルダー分析を行った。そして、観光客・行政・商店街・市民へのヒアリング、魅力主成分分析を用いた観光政策の分析、CVCA（Customer Value Chain Analysis ）の手法を用いた政策事例の分析をし、小田原市の観光システムの問題を抽出した。また、各ステークホルダーの要求を知るためにも、ヒアリングを行い、小田原の目指す観光の姿を描いた。問題を解決しつつ、各ステークホルダーの要求を満たせるように、ソリューションの候補を作成した。ソリューション候補を更に絞り込むために、スクリーニングを2回行った。カットオフメソッドとクリームオフメソッドでスクリーニングをそれぞれ１回ずつ行い、最終的に各主体間で１つずつ、計３つのソリューションを考案した。観光の有効性を考慮しつつ、各ステークホルダーの要求を満たした上で小田原市が、今より観光客にとって魅力となるための観光システムのデザインをした。
評価と検証として、考え出したソリューション案が、観光客にとって小田原市の観光地の魅力向上に有効かどうかを観光客を対象に実際にワークショップを実施し、有効性が確認できた。また、実際に観光システムとして実現性があるかを確認するため有識者の方にレビューをお願いし、実現性と有効性を確認できた。

修士学位論文. 2011年度システムエンジニアリング学 第67号