過去25年にわたって, 取引費用理論(Williamson, 1975, 1985, 1986, 1999)は, 製造業者による前方のチャネル選択問題を説明するための有力なアプローチの1 つとして知られている。取引費用理論は, 取引の状況における機会主義と限定合理性に焦点を当て, 資産特殊性と不確実性がチャネル統合度・コントロール度に正の影響を及ぼすと主張する。しかしながら, こうした取引費用分析には, 未解決の課題もいくつかある。それらの課題として, 例えば, チャネル選択に対する不確実性の影響やチャネル選択における取引費用とケイパビリティの役割などが挙げられる(cf.Rindfleisch and Heide, 1997;Rindfleisch et al., 2010)。こうした状況のなかで, 現在, ケイパビリティ理論(Langlois 1992, 2004, 2007;Foss, 1993, 1996;Langlois and Robertson, 1995;Langlois and Foss, 1999)が, 取引費用理論の不十分な点を補う補完的なアプローチとして台頭している。また, 多くの研究者が, 取引費用のみならず, 企業のケイパビリティが, チャネル選択の意思決定に影響を及ぼすと主張している(cf.Rindfleisch et al., 2010;Teece, 2010)。以上を踏まえて, 本研究は, 取引費用要因とケイパビリティ要因がチャネル統合度およびチャネル・コントロール度に及ぼす影響について, 理論的・実証的な検討を試みる。分析の結果, チャネル統合度が取引費用要因とケイパビリティ要因によって影響を及ぼされること, その影響は取引費用要因よりもケイパビリティ要因のほうが大きいこと, およびチャネル・コントロール度が取引費用要因によって影響を及ぼされることが示される。
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