多国籍企業のR&D機能は企業活動の価値連鎖の最上流に位置する機能であり, 多国籍企業グループにおいてグローバル化のスピードがもっとも遅くなる機能領域であるとされている(Narula and Dunning, 2010)。多国籍企業のR&D部門の一部の機能, または全ての機能が, 今日ではグローバル化されており, ホーム国とホスト国にてR&Dを行うことにより, 多国籍企業のグローバル・イノベーション戦略に繫がっている。海外進出した後のホスト国での在外子会社の戦略や役割, 在外子会社の本質, 形態, 組織に関する研究, 在外子会社のR&D活動の役割やグループ全体に与える影響に関する研究等で日系企業を対象にしたものは少ないのが現状である。本研究では, ホスト国でのR&D活動により獲得した知識や成果を, 多国籍企業がどのようにグローバル規模で活用しているのか, という点を詳細に明らかにすることを目的としている。その目的を果たすために, 本論文ではヨーロッパにR&D拠点を持つ日系多国籍企業に焦点をあて, ヨーロッパ諸国でのR&D拠点がどのような特徴を持っているのか, 近年のデータを用いて傾向をつかみ, 課題を明らかにしていく。データ分類の結果, 合計31社がグローバル市場用, あるいはグローバル規模で活用するためのR&Dを行う拠点をヨーロッパに置いていることから, 日系企業にとって, R&D拠点としてのヨーロッパ諸国は重要なホスト国であることが本論文で明らかとなり, 近年の日系多国籍企業のヨーロッパでのR&D拠点の特徴を捉えることができた。今後は, 在ヨーロッパ日系多国籍企業のR&D拠点の機能, 役割, 目的を中心に企業ごとに分類し, ホスト国でのR&D拠点で獲得した知識や成果を, 多国籍企業がいかにグローバル規模で活用しているのか, 多国籍企業グループ全体のイノベーション戦略にいかに貢献しているのかという点を解明することに繫げていきたい。
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