P.D.コンヴァース以降これまで展開されてきたマーケティング研究の科学的性格をめぐる諸主張のうち,科学ないし科学的発言の特徴についてかなり明示的に自らの観点を表明したのは,前稿で検討したオハイオ州立大学のR.バテルスであった。バテルスに至るまでの諸発言も「役に立つ確実な知識」という実際上の要求に応えることを意図し,何よりもマーケティング研究を科学的な地位にまで高めることが急務であるという意識に導かれたものではあったが,しかし,それらにおいては,科学ないしある学科領域の科学的性格をどのように考えるのかについて,ほとんどあるいは全く触れられることがなかったと言ってよい。その意味からも,バテルスの主張は,もちろん前稿でみたように多くの問題点や曖昧な点を含むものではあったが,注目するに値する内容をもっていたといえるであろう。ところがバテルスから丁度1年後,かれの主張は,ボストン大学のケネス.D.ハッチンスンから痛烈に批判されることになった。本稿では,ハッチンスンのバテルス批判を中心にかれの主張を要約的に概観し,この両者の間で何が問題にされたのか,そしてその問題をめぐる両者の主張の異同を明らかにしながら,批判的に検討したいと思う。
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