本稿は, 電気通信事業, とりわけ移動体通信事業における接続規制の意義について, 現在の移動体通信市場の競争状況との関係で, 改めて理解しその在り方を考察しようとするものである。たしかに, 移動体通信事業に対する規制をめぐっては, 総務省がその時々の市場の状況を踏まえ, 見直し・検討を行ってきており, 近時, とくに接続規制については一定の方向性が示されたところである。だが, 繰り返し行われた見直し・検証による接続規制の充実・強化は, 接続料の算定方法の操作により実質的な参入障壁を引き下げるのに一応の効果を見たものの, その恩恵は接続によってサービスを提供する一部のMVNOが享受するのみであった。また, 接続料についてはガイドラインに基づく算定プロセスにより透明化が図られ, 接続料の一斉引下げが行われたものの, MNO間に新たな競争を生みだすものではなかった。近年の目覚ましいMVNOの参入も, 設定が容易で手頃な価格のSIMフリー端末の普及に負うところが大きく, 接続規制の成果であるとは必ずしもいえない。このように, 移動体通信事業に対する接続規制は, 同市場の実効的な競争の展開に限られた役割しか果たし得ないものである。他方, 接続規制は, 接続取引市場に向けられたものであり, 電気通信事業者の参入にとってたしかに重要であるが, 加入者の争奪をめぐる競争の場ではなく, 利用者料金への影響は間接的でしかない。その上, 移動体通信事業に関する限り, 当該市場における競争を前提とすれば, 接続規制を維持する根拠・正当性はきわめて薄弱であり, 取引当事者間の力の格差や情報の非対称性を是正し, 公正な競争を促すことを念頭に設けられたはずの約款規制も, 潜在的な問題をはらんでいる。これらの事情や移動体通信事業に対する接続規制の意義を踏まえれば, 同規制の廃止も含めた見直しが必要とされている。
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