本研究は、ジョルジュ・バタイユの社会学的思想が、「供犠」や「インセストタブー」といったクラシカルな主題の枠組みを越えて、いかなるアクチュアリティを持ちうるかを検討し、経済合理主義が偏重される現代世界に批判的眼差しを向ける手段たる、「現代思想」としてのバタイユ思想の新たな側面に迫ろうとするものである。まず、バタイユが社会学の知見を用いて議論を展開している著述の読解に努め、とりわけ第二次世界大戦を経ての思考の変遷、具体的には、「科学」「虚構」「行動」という三営為を統合することによる実存変革および社会変革の手立てとしての社会学への期待から、独自の「全般経済学」の視座に基づく社会考察の手立てとしての社会学の受容への移行を浮かび上がらせた。当初、フランス国立図書館で資料収集を実施予定だったが、Covid-19をめぐる状況が流動的ななかで、結果として渡航の機を得られなかったため、この埋め合わせの調査は近い将来の課題としたい。この点を除けば、作業は概ね順調に進捗した。7月には、本研究のテーマとも密接に関わる著作である、湯浅博雄『贈与の系譜学』(講談社、2020)をめぐり、東大駒場キャンパスで行われた書評会の司会を務め、湯浅氏はじめ複数の専門家と議論を深めた。くわえて、山田広昭「全般経済学と純粋アナーキー原理」の書評、ならびに関連書(山田広昭『可能なるアナキスム マルセル・モースと贈与のモラル』(インスクリプト、2020)/バタイユ『ドキュマン』(片山正樹訳、二見書房、1974)/森山工『贈与と聖物 マルセル・モース「贈与論」とマダガスカルの社会的実践」(東京大学出版会、2021)/岩野卓司『贈与論 資本主義を突き抜けるための哲学』(青土社、2019))の書評を完成させた。これらの書評は、山田氏の論考とともに、『はじまりのバタイユ 贈与・共同体・アナキズム』(法政大学出版局)に所収されて2023年4月に刊行される。
In July, I moderated a book review meeting at the University of Tokyo's Komaba Campus for Hiroo Yuasa's "The Genealogy of Gift" (Kodansha, 2020), a work closely related to the theme of my study, and deepened discussions with Mr. Yuasa and several other experts. In addition, I have reviewed Hiroaki Yamada's "General Economy and the Pure Anarchy Principle" and related books (Hiroaki Yamada, Possible Anarchism: Marcel Mauss and the Morality of Gift (Inscript, 2020) / Bataille, Documents (translated by Masaki Katayama, Futami Shobo, 1974) / Takumi Moriyama, The Gift and the Sacra. Marcel Mauss's The Gift and Social Practices in Madagascar (University of Tokyo Press, 2021) / Takuji Iwano, The Gift: A Philosophy for Penetrating Capitalism" (Seidosha, 2019)). These reviews will be published in: Bataille in the Beginning / as Biginning: Gift, Community, Anarchism (Hosei University Press) in April 2023.
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