最近の十七世紀イギリス文学研究、特に初期近代演劇研究における劇的な変化は、デジタルアーカイヴズ、すなわち広くネット上に公開された「研究用電子データ資料の集積書庫」を使った新たな研究スタイルの到来である。しかし実際に当時のロンドンで印刷された「古版本」そのものを研究対象としなければ、書物の印刷出版のプロセスを精緻に検証する分析書誌学の分野では、高度な研究成果を上げることは出来ない。その意味で、本研究においてはデジタル映像化された書物や現代校訂本のみを対象とするのではなく、当時の印刷所で制作された書物そのものをリサーチ対象とする研究を必須と考え、印刷と出版文化にまつわる様々な周辺事情の先行研究に加え、現物としての「古版本」から判明する書誌学情報を集積する目的で行った。
本研究のために購入した Andre Favyn の *The Theater of Honour and Knight-hood; Or A Compendious Chronicle and Historie of the whole Christian World*の古版本は、1623年に William Jaggard 印刷所で印刷された書物の現物である。これはシェイクスピアの初版全集（First Folio）を印刷した同じ印刷所が同じ年に印刷した同型の二つ折り本である。本書の印刷形態を詳細に分析することにより、First Folio との類似性や本書の特殊性を知ることが出来た。
またJeremy Collier著 *A Short View of the Immorality and Profaneness of the English Stage: Together with The Sense of Antiquity Upon this Argument（1698）および *A Defence of the Short View*（1699）は、本研究の主眼のひとつである十七世紀の英国演劇を取り巻く「批判的」な言説を詳らかにしてくれるものであった。このほか、*The Disputed Revels Accounts*では、当時の宮廷上演に関する史料を入手することが出来、とりわけシェイクスピアの芝居がいかに宮廷で上演されたかについて多くの示唆を得ることが出来た。
Bibliographical details on the printing and publication process were uncovered, based on the use of the original edition of Andre Favyn's *The Theater of Honour and Knight-hood; Or A Compendious Chronicle and Historie of the whole Christian World*, a book printed by William Jaggard, the printer of Shakespeare's First Folio, in 1623, the year he printed the First Folio.
Defiant criticsm against English Drama in the late 17th century became clear via Jeremy Collier's original editions of *A Short View of the Immorality and Profaneness of the English Stage: Together with The Sense of Antiquity Upon this Argument（1698）and of *A Defence of the Short View*（1699).