商業学分野において,企業のマーケティング戦略におけるビッグデータの活用は,現在,注目を集めている研究トピックの1つである。本研究では,企業がマーケティング戦略を策定・実行するうえでビッグデータを活用する状況に注目して,2つの市場志向(反応型市場志向と先行型市場志向)が2つのイノベーション(活用型イノベーションと探索型イノベーション)を介して事業成果に及ぼす影響と,そうした関係を促進するイグノランス・ベースト・ビューという組織能力要因の役割を理論的・経験的に明らかにする。本研究を進めるにあたり,昨年度は以下の3つのことに取り組んだ。第1に,本研究の前提として,マーケティング戦略においてビッグデータをうまく活用するために重要な組織能力要因は何かについて考える論文を執筆した。この論文は,今年度,『三田商学研究』において発表予定である。第2に,その重要な組織能力要因の1つとしてイグノランス・ベースト・ビューが挙げられるが,この概念を測定する尺度が存在しないため,その尺度をMacKenzie, Podsakoff, and Podsakoff (2011) が示した手順に従って開発した。イグノランス・ベースト・ビューとは,イグノランス(我々がまだ理解していないこと)がナレッジ(我々が理解していること)よりも重要であると認める科学的探究の状態を意味し,決定的な答えや解決策を提示するのではなく,新しい問いを立てたり,まだ探求されていないことを解明したりする機会を提供するものである (e.g., Erevelles, Fukawa, & Swayne, 2016)。第3に,2つの市場志向,2つのイノベーション,事業成果,そしてイグノランス・ベースト・ビューの関係に関する仮説を立てたうえで,その仮説を経験的に検討するためのデータを収集している。調査対象は,日本企業1500社である。今後,収集されたデータを用いて実証分析を行い,その後,英語論文を執筆し,海外ジャーナルに投稿する予定である。
In the context in which firms utilize big data in their marketing strategies, this study examines the effects of two types of market orientation (responsive and proactive market orientation) on business performance through two types of innovation (exploitative and exploratory innovation), and the role of ignorance-based view in the series of processes. In particular, I address the following three issues. First, I explore the important organizational capabilities for firms to take advantage of big data in their marketing activities. Second, because ignorance-based view does not have a validated scale in the existing literature, I develop a scale to measure the construct following the guidelines articulated by MacKenzie, Podsakoff, and Podsakoff (2014). Third, to test the research hypotheses, I conduct a survey with 1500 top and middle level managers in Japanese firms.
|