本年度は、前年度までの研究を踏まえて、「道徳」「人間」「社会」をめぐる近代イギリス倫理思想の議論の流れと全体像を明らかにした。
(1)道徳 まず、17世紀の後半から18世紀の初めにかけて、道徳の客観性が問題にされ、ホッブズの相対主義的な道徳論に反対して、「自然法論」や「客観主義」が道徳の客観性を主張した。そして、18世紀の初めから終わりにかけて、道徳の認識が問題にされ、道徳判断の能力や起源に関して、「感情主義」と「合理主義」が対立した。さらに、18世紀の終わりから19世紀にかけて、道徳の原理が問題にされ、全体の幸福を道徳の原理とする「功利主義」に対して、「直観主義」がその考えを批判した。
(2)人間 まず、17世紀の後半から18世紀の初めにかけて、人間の利己性や利他性が問題にされ、人間の本性をめぐって、「利己主義」と「利他主義」が対立した。続いて、18世紀の初めから終わりにかけて、人間の理性や感情が問題にされ、理性に対する感情の優位を主張する「感情主義」に対して、「合理主義」が理性的な人間観を発展させた。さらに、18世紀の半ばから19世紀にかけて、人間の進歩が問題にされ、「連合主義」を先駆けとして、「功利主義」「進化論」「理想主義」がそれぞれの考えを唱えた。
(3)社会 まず、17世紀の後半から18世紀にかけて、社会の成立が問題にされた。17世紀の後半には、「社会契約説」が政治社会の設立について論じたが、18世紀になると、それに代わって、いわゆる「市場社会論」が経済社会の形成について論じた。そして、18世紀の終わりから19世紀にかけて、社会の改革が問題にされた。18世紀の終わりには、「保守主義」と「急進主義」が対立したが、19世紀になると、それに続いて、「功利主義」「社会主義」「理想主義」が社会の新たなあり方をめぐって論争を交わした。
This year I reconsidered the history of modern British ethical thought, as follows: 1. Of Morality (Natural Law Theory, Objectivism, Sentimentalism, Rationalism, Utilitarianism, and Intuitionism), 2. Of Man (Egoism, Altruism, Sentimentalism, Rationalism, Associationism, Utilitarianism, Theory of Evolution, and Idealism), 3. Of Society (Social Contract Theory, Theory of Market Society, Conservatism, Radicalism, Utilitarianism, Socialism, and Idealism).
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