分子内に親水基と疎水基を併せ持つ両親媒性分子が水中で形成するベシクルは, 化学物質の輸送体やセンサーとして機能することから, 創薬・医学分野, 分析化学分野において注目を集めている。しかし既往の化合物では, ベシクルの安定性と, それが環境に応答して内包物を放出したり, 形態を変化したりするといった機能性とを両立できておらず, そのジレンマを解消する有力な手法は未だに存在しない。そこで本研究では, 優れた構造安定性と環境応答性を併せ持つ高機能性オンデマンド型ベシクルの創製を目的に, 新たな両親媒性分子の開発を行った。
伴野のグループでは, エステル結合を有する重合性の両親媒性分子を有機合成し, それからなるベシクルについて温度を変化させて観察を行った。室温から昇温させるとベシクルは崩壊したが, その後新たに球状のベシクルが形成し, 室温への降温および室温からの再昇温過程においては崩壊せずに, 長球状や梨状, 球状へと変形することを見出した。ベシクル分散液の組成を調べたところ, 両親媒性分子由来の加水分解物の生成が認められ, これの生成量が一定以上になると温度に応答して変形するベシクルが自発的に形成することがわかった(第68回コロイドおよび界面化学討論会にて口頭発表)。
高橋のグループでは, 独自に開発した触媒的かつ立体選択的β-マンノシル化反応を活用することで, 当初の計画通り, マンノース構造と脂肪酸鎖長が種々異なる計20種類の天然糖脂質(MEL類)の網羅的な全合成を達成した(J. Org. Chem. 2018, in press.)。さらに, これらのベシクル形成能を評価した結果, 脂肪酸鎖長の微細な違いがMELのベシクル形成に大きく影響を与えることを初めて見出した(日本化学会第98春季年会にて口頭発表(伴野らとの共著))。
以上, 本研究は当初の計画以上に進行し, 目的とする高機能性オンデマンド型ベシクルを創製する上での有用な知見を得ることに成功した。
Micrometer-sized giant vesicles (GVs) composed of amphiphilic compounds having hydrophilic and hydrophobic groups have been drawn much attention as transporters of chemical substances and chemical sensors. However, there is no report about GVs having the stability and the functionality, such as releasing inclusions and changing the morphology in response to external stimuli. In this study, we have developed new amphiphilic compounds through a synthetic approach for creation of highly functional on-demand vesicles having both excellent structural stability and environmental responsiveness. We found that temperature-dependent deformable GVs composed of an equimolar amount of polymerizable amphiphiles having an ester linkage and non-reactive amphiphiles were generated through the thermal stimulation. In addition, by applying stereoselective reactions using aromatic borinic acids as a catalyst, we have successfully synthesized a series of mannose-type glycolipids having two fatty acid chains. It was clarified that GVs were formed in water when glycolipids having both specific mannose skeletons and fatty acid chains were used.
|