磁性体は, 我々に最も身近な機能材料のひとつであるが, 有機・高分子材料は磁石としての性質, すなわち強磁性を発現しない物質とされてきた。一方, 軽量かつ強力な磁性材料の需要は社会的にも急速に高まっており, 成形加工が容易な有機・高分子材料で無機磁性材料を代替する方法論を開拓することは, 持続可能な社会を維持するためにも重要な研究課題である。本研究の目的は, 強磁性金属と強磁性金属酸化物の電子構造の特徴を取り入れた基底多重項状態を示す有機分子の設計法を確立し, 全く新しい有機・高分子材料を創製することにある。強磁性金属では, 金属的な導電性を担う遍歴電子が媒介するバンド強磁性が, また, 強磁性金属酸化物では局在スピンが非磁性イオンを介してカップリングする超交換相互作用がはたらいている。高いTcを示すこれら無機磁性体の電子構造を概念的に有機分子に当てはめ, 局在スピンと非局在スピンを導入し, 高い化学的安定性を維持した導電性高分子磁性体の設計指針を確立する。
平成29年度の研究成果として, 遍歴電子のモデルとしてカチオンラジカルを, 局在スピンとしてテトラメチルピロリン-N-オキシルを導入したビラジカル分子を設計し, 計算化学的手法を用いて分子内の磁気的相互作用を評価し, 非常に強い相互作用が発現することを見出した。さらに, カチオンラジカル部分のみを含む誘導体を合成し, 室温, 大気下においても高い化学的安定性を有することを確認した。分光学的測定ならびに電気化学的測定から分子の物理化学的性質を検討した。さらに, 単結晶構造解析結果から分子の接近形態を明らかにした上で, ESRおよびSQUID測定で分子内および分子間の磁気的相互作用を定量的に評価した。その結果, 結晶構造の変化に伴い磁気特性が大きく変化するスピン転移挙動を見出すことに成功した。
Stable organic radicals have been widely applied as spin center in the field of molecule-based magnetism. Their magnetic properties are attributed to the magnetic moment originated from unpaired electron and depend on the configuration of the intra- and intermolecular interaction between the magnetic moments. In the solid state, molecules are assembled by non-covalent intermolecular interaction and their property and function can be modified by the variation of molecular assembly. Therefore, it is important to develop the methodology to control the intra- and intermolecular magnetic interaction to construct the molecule-based magnet. In the present research, we focused on the combination of conjugated radicals and pyrroline N-oxyl skeleton as spin center and their magneto-structural correlation and intramolecular interaction through non-conjugated framework were discussed.
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