本研究は, ドイツと日本を対象国に据え, 食生活の近代化に欠かすことのできない「食肉」を切り口とした比較史研究である。
近代化と食肉は不可欠な関係にある。日本では, 明治天皇が牛肉を口にしたことを皮切りに, 牛鍋をはじめとする肉料理への忌避感が薄まり, 肉食社会が加速した。ヨーロッパては, 牛, 豚, 鶏などの食肉の消費量を増すことで, 都市化が進む社会を安定させ, 増える人口の健康水準を引き上げ, 発展する経済の労働生産力を高めるようとした。
ところが, 肉食社会が発展すればするほど, 問題が噴出することになる。例えば, 食肉の大量生産と大量輸送に伴う, 人獣共通感染症のリスクにどのように備えるのかという課題が生まれ, 科学による肉食検査が確立する。このような肉食社会の様々な問題に対して, ドイツと日本がどのように対処したのかを解明を目指す。
具体的に, 次の3つの研究活動に取り組んだ。まず, ドイツのベルリンへ11月に足を運び, 公文書館にて多くの行政資料を発掘した。その中でも衛生局における獣医警察関連の資料が有益であった。とりわけ, ワクチンの開発により, 科学と国家による動物身体への介入が活発化した1920年代の資料が興味深かった。
次に, 同じくドイツへの研究旅行を通して, 20世紀初頭にドイツ帝国の植民地となった青島に関する文献資料を, ベルリン国立図書館にて発掘できた。具体的に, ドイツ人によって建設が進められた「東アジアで最も優れている」とされた屠畜場の資料を発見することができた。これにより, 家畜の新しい屠畜方法が東アジアでどのように普及していったか明らかにできる。
最後に, 上海の復旦大学にて開かれた学会にて, 「Mapping New Technologies of Slaughter: the Model Abattoir at Tsingtao under German, Japanese and Chinese Rule」という題名で研究旅行の1次的な成果を発表することができた。日本統治時代資料の分析も行った。
The research supported by the Development Fund has enabled preliminary research into a comparative historical project that compares and contrasts the experience of Germany and Japan as both countries transformed increasingly into meat-based societies.
During the research trip to Berlin, the investigator was able to visit the state archives. Much was found with regard to material generated by the state veterinary services department as it gained increased access to the body of the animal on the back of developments of vaccines.
The research trip to Berlin also made possible research into Tsingtao, once a German colony, where the "best abattoir in East Asia" was constructed. Reports and articles by veterinarians posted to the town proved particularly useful in understanding how and why an animal and meat inspection regime came into being.
Part of the fruits of such endeavors resulted in a paper the investigator presented at the "Closing the Gap - how technology changes human-animal relations" that was held in Fudan University, Shanghai, bearing the following title: "Mapping New Technologies of Slaughter: the Model Abattoir at Tsingtao under German, Japanese and Chinese Rule".
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