先天性筋ジストロフィー(Congenital Muscular Dystrophy : CMD)は生下時から筋力低下を認める遺伝性筋疾患の総称である。1998年, ミトコンドリア異常を伴う新規CMDが発見され, 原因遺伝子のひとつがCholine Kinase β(Chkb)であることが同定された。Choline Kinase βは細胞膜を構成するグリセロリン脂質の一つ, Phosphatidylcholine(PC)の合成経路であるKennedy経路の第一段階を触媒する酵素である。しかしながら, CMDの病態に繋がる代謝機構は解明されておらず, 詳細な発症メカニズムは不明である。本研究は, Chkbを欠損させたCMDモデルマウスであるRostral-to-caudal Muscular Dystrophy mouse : rmdマウス, 健常マウスの大腿四頭筋を対象とし, 代謝物の変動を理解することを目的とする。Chkbの欠損があるCMDでは細胞膜を構成する脂質に代謝変化をもたらす可能性があるため, 脂質メタボローム解析による変動解析と, トランスクリプトーム解析による遺伝子発現量解析を行った。グリセロン脂質の解析を行った結果, PCはrmdマウスで減少する一方, Phosphatidylethanolamine(PE), Phosphatidylserine(PS)は増加する傾向がある。rmdマウスの筋肉ではPE, PSを基質とするPhospholipase A2の遺伝子発現量が増加しており, リゾリン脂質と共に多価不飽和脂肪酸(Polyunsaturated fatty acid : PUFA)が増えていることが示唆される。また, PUFAの増加に伴って, PUFAの酸化代謝物であるProstaglandin類などの炎症性メディエーターも増加している可能性がある。以上より, CMDの発症に細胞膜のグリセロン脂質バランスの変化が引き金となる炎症反応の関与が示唆される。
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