近年, 宿主と共生細菌との相互作用が互いの生理機能に様々な影響を与えることが報告されており, 宿主と共生細菌とが織りなす複雑で洗練された複合生態系を包括的に理解することが, 真の生命体の理解につながると考えられる。卒業論文ではこのような宿主と共生細菌との相互作用を, マルチオミクス解析を用いて解明すべく, 「植物疾患における土壌細菌叢の影響解明」, 「腸内細菌由来の刺激による哺乳類免疫細胞の応答性解明」という2つのテーマにおける研究結果を報告する。本卒業論文ダイジェストでは後者に関して簡潔にまとめる。ヒトの腸内には約100兆個, 数百種類の腸内細菌が存在するといわれている。こうした腸内細菌は宿主の免疫細胞と相互に作用し合い, 疾患や恒常性の維持など様々な形で宿主に影響を与えていることが知られている。我々はこれまでに, 生体内の自然免疫系において重要な役割を担うマクロファージへの微生物刺激による応答性を, 遺伝子発現レベルや, 代謝物レベルで解析してきた。メタボローム解析の結果, マクロファージ様細胞にグラム陰性菌の細胞膜構成成分であるリポ多糖(Lipopolysaccharide ; LPS)刺激を加えることで, DNAメチル化の基質として利用されるS-アデノシルメチオニン(S-adenosylmethionine ; SAM)が細胞内に蓄積するという知見を得た。この結果はLPS刺激によってマクロファージDNAのメチル化が生じ, その後の応答性の変化に関与する可能性を示唆している。先行研究において, 免疫細胞に対するLPS刺激によるSAM蓄積の明確なメ力ニズムは報告されておらず, どのようにしてSAMが細胞内に蓄積するのかは不明瞭である。したがつて本研究ではSAM蓄積のメカニズム解明に向け, LPS刺激直後のマクロファージ細胞内代謝物の変動をメ夕ボローム解析により網羅的に探ることで, 代謝物レベルでの細胞動態を明らかにすることを目指した。その進渉を本卒業論文ダイジェストで報告する。
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