通常, 様々な外科的手術の後は集中治療室にて患者の経過観察を行う。その際, 少数の患者は急性腎障害(acute kidney injury ; AKI)を発症する。AKIとは腎機能が低下している状態を指し, 比較的侵襲の大きな手術を行った後に, 敗血症や多臓器不全, 薬剤などを原因として引きおこされる病態である。末期腎不全に陥ることを阻止するために, 腎臓に障害が加わった最も早期の段階を捉えようとする新しい概念として提唱された。現在のAKIの診断には多くの時間を必要とするため治療の開始が遅れ, 重症化に陥るリスクが高くなる。従って, 早期にAKIを予測出来るバイオマーカーが必要とされている。尿中にはアミノ酸等の低分子代謝物が豊富に含まれており, イオン性代謝物を網羅的に測定出来るキャピラリー電気泳動-質量分析法(capillary electrophoresis-mass spectrometry ; CE-MS)とも非常に相性が良い。
本研究では, 手術後にAKIを発症しなかった患者23人(non-AKI), 軽度のAKIを発症した患者24人(mild-AKI), そして重度のAKIを発症した患者14人(severe-AKI)の尿をCE-MSを用いて測定した。その結果, 143のイオン性代謝物を同定した。AKIの早期介入マーカーを見つけるために, ICUに入室した時点に焦点を置いて統計解析を行った。最終的にbeta-AlanineとAlanineが, non-AKIとsevere-AKIを判別できるバイオマーカー候補として同定された。また, non-AKIとmild-AKIはほぼ全ての代謝物で同程度尿中に存在することが分かった。しかしながら, Trimethylamine N-oxideとCysteine S-sulfateの比をとることで, non-AKIとmild-AKIを判別できる可能性が示唆された。これらのバイオマーカー候補が臨床現場で適用され, AKIの予後不良改善や死亡率の低下につながることを期待する。
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