血球系細胞の幹細胞である造血幹細胞から赤血球へと分化する過程では, エリスロポエチンと呼ばれるホルモンの刺激が成熟赤血球への分化に必須であることが報告されている。分化に関わるシグナル伝達経路や転写因子などの特定に関する報告は多くあるが, 分化過程での細胞内分子の振る舞いは依然として不明な点が残されている。赤血球分化過程では, シグナル伝達により活性化されるSTAT5とGATA1という2つの転写因子が重要な役割を有していることが知られており, 先行研究としてこれらの転写因子を発現するJAK2-STAT5経路とPI3K-AKT経路それぞれのカスケードとフィ一ドバック制御に関する数理モデルの構築が行われてきた。本研究ではこれらの2つの経路を含む細胞内分子ネットワークモデルをE-Cell SEならびにMATLABを用いて構築し, 統合を行った。シグナル伝達経路の活性化はエリスロポエチン受容体(EpoR)のリン酸化部位に依存している。複数あるリン酸化部位の機能に関する解析は部位毎に進んでいるものの, それぞれのリン酸化部位へのリン酸の分配則は明らかになっていない。本モデルでは, リン酸化の組合せによってシグナル伝達の起点となるEpoRとJAK2の複合体のEpoRpJAK2を5パターンに分類し, より詳細なリン酸化の状態を表現し, シミュレーションを行うことが可能となった。統合モデルの結果から先行研究のパラメ一夕セットの妥当性を検証すると共に, リン酸化の分配則やフィードバック制御の強度変化, 滑降シンプレックス法を用いて, それぞれの分子の挙動が実験デ一夕の結果を忠実に再現するパラメ一夕セットの探索を行った。また現在, 細胞シミュレーション研究を行う環境はユーザーのローカル環境に強く依存しており, E-Cell SEのような環境面の制限が大きいソフトウェアなどはインストールコストが高い。モデルの動作を確認するためにE-Cell SEで構築されたモデルをWebブラウザ上で実行できるWebアプリケーション開発も行った。
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