生体内の内部環境では, pHやイオンの電気的中性値は赤血球, 血漿, 組織液の区画ごとに一定の値に保たれている。しかし, 腎機能や肺機能が低下すると, これらの値は一定に保たれず, 酸塩基平衡障害が引き起こされる。障害の重症度を計測するために, Base Excess(BE)をはじめとする様々な評価方法が提唱されており, これに基づいて治療が行われる。しかしながら, 治療方法として通常, 酸塩基平衡障害患者に生理食塩水等の輸液を投与するが, 患者の持病や症状によって治療方法が異なるため, 個々人に合致した治療を行うことが難しい。従って, 患者の症状に合った輸液を予測することは非常に重要な課題である。そこで, 2011年にWolfとDeLandによって構築された新しい評価値であるBEの総和(BEnet)を用いた酸塩基平衡障害の診断モデルを参考として, 私たちは輸液投与中のBEnetの経時的な変化を予測できる酸塩基平衡モデルをE-Cell System上に構築した。酸塩基平衡患者のデ一夕を用いて各BEの値と総和を算出したところ, 各BEの値とBEnetの値は定常状態において先行研究の値とほぼ同じ値をとった。更に, このモデルで2人の酸塩基平衡障害患者のデータを用いて使用頻度の高い輸液をそれぞれ6種類投与し, 4時間のシミュレーションを行った。その結果, 6種類の輸液は症状を改善するために有効であることが示された。本研究の成果により, シミュレーションを用いた複数種類の輸液を投与した際の患者BE値の変化の予測が酸塩基平衡障害患者の治療に有用であることを提示した。
|