近年, 副作用の少ないがんの代替療法として高濃度ビタミンC点滴療法が注目を集めている。一般的に抗酸化物質として知られるビタミンCが, むしろ酸化促進作用を発揮することでがん細胞に選択的な毒性をもたらすと示唆されているが, その作用機序は未だ明らかになっていない。さらにビタミンCに対する感受性は一様ではなく, 同じがん種由来でも細胞株間で顕著な差があることも確認されている。本研究では, ビタミンCの毒性作用機序をメタボロミクスの観点から解明することを目的とし, まずはビタミンCに対し高感受性を示したMCF7(ヒト乳がん細胞株)および低感受性を示したHT29(ヒト結腸がん細胞株)を用い, キャピラリー電気泳動飛行時間型質量分析装置(CE-TOFMS)による経時的なメタボローム解析を行った。結果, それぞれの細胞において細胞毒性が生じるビタミンC濃度条件では, プロファイルの変動が類似しており, 加えてエネルギー生成の低下が示唆され, またNAD, NADHの低下に伴い, 解糖系上流およびTCA回路上流に位置する物質濃度が増加したことから, NADの分解に起因するエネルギー代謝全体の停滞が示された。さらに, 抗酸化物質をビタミンCと共添加することにより両細胞株における細胞死が顕著に回避され, ビタミンCによる毒性が緩和されたことから, ビ夕ミンCによる細胞毒性が主にROSの発生によるものであることが示唆された。したがって, ビタミンCによる細胞毒性がエネルギー代謝に顕著な影響を与え, さらにビタミンCによる細胞毒性がROSと密接な関係をもつことを浮き彫りにした。一方, 正常細胞に対するビタミンCの毒性の低さを検証すべく, まず正常細胞とがん細胞のビタミンCに対する感受性を比較したところ, 4種の正常細胞のうち3種において, がん細胞に対する毒性と同程度の毒性が生じ, ビタミンCのがん細胞選択的毒性がこれまでに考えられていたよりも不完全なものであることも示唆された。今後, ビタミンCを投与した正常細胞におけるメ夕ボロームデ一夕との比較解析を行うことで, 高濃度ビタミンC療法の有効性を高め, さらに副作用の可能性についても洞察を深めることができると考える。
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