漢方薬(方剤)は複数の生薬を組み合わせて処方するオーダメイドな治療薬で, 生薬の加減を患者の体質に合わせて行う。生薬は性質により熱, 温, 涼, 寒に分類されており, これは「四性」或いは「四氣」と呼ばれている体系に基づいている。生薬の四性は方剤の組み合わせを決める際に考慮されるパラメーターの一つであり, この分類法は, 生薬が人体へ与える影響をもとに経験則的に決定されたものである。しかし生薬の四性は, 約2000年以前から使用されてきたにも関わらず, 分類基準の科学的根拠が未だ知られていない。客観的•定量的に四性の性質を区分することは, 漢方薬の薬理作用のメカニズムの説明, 臨床応用, 及び中国伝統医学の正確な継承のために重要である。
メタボロミクスは近年急速に発展している研究分野であり, 細胞内または生体内の代謝物を対象とし, 医薬品, 食品, 環境など様々な分野で応用されている。キャピラリー電気泳動 : 時間飛行型質量分析装置(CE-TOFMS)はイオン性低分子の測定に優れた質量分析装置であり, 生体内の代謝物質の大半を占めるイオン性低分子を網羅的に定量できる。本論文ではCE-TOFMSを用い, 代謝物生薬の「熱と寒」の分類及び意義の探求を目指した。
本研究では14種類の寒性生薬及び13種類の熱•温性生薬を用い, マウス胎児皮膚細胞(NIH3T3)の代謝に及ぼす影響をメ夕ボローム解析により調べた。各生薬に対するNIH3T3の感受性を調べた結果, いずれの生薬も細胞増殖率を低下させることが確認された。この結果に基づき, 増殖抑制する濃度の生薬を添加して細胞を培養した際の細胞内代謝物の解析を行った。
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