スーパーマーケットは我々にとってごく身近な消費の場である。消費者の視点ではまず気がつくことはないが, スーパーマーケットの中間管理職者である「店長」は, 多岐にわたる業務処理に追われるだけでなく, 組織方針(要請)に忚えるための計画立案に時間がかかるために, 早朝から深夜までの長時間労働となることが日常化している場合も珍しくない。筆者はアルバイトにおける経験からこうした実情を知り, 客観的にみればバーンアウトに陥りやすい環境・状況が整っていると言い得るスーパーマーケット業は, 職場ストレス研究の対象とするうえで適当である"ストレスフルな職種"のいち形態例となり得るのではないかと考えた。
本研究は前述の対象選定理由に則り2年前の卒業研究で行なった職場ストレス研究を, 厳密な統計的技法を加えてより論理的に追究したものである。前回のデータに4名のデータを新たに加え, 6社のスーパーマーケットの店長86名, 代表取締役社長1名, 監査部員1名の計88名から得られた量的データ(質問紙調査票85名分)および質的データ(インタビュー記録18名分)を用いて, 分析と考察を試みた。量的データの分析では3つのモデル: 調整変数モデル, 媒介変数モデル1, 媒介変数モデル2を立て, リーダーシップ, パーソナリティ, 職場ストレッサー認知, バーンアウトの4項目の関係について検証を行った。質的データの分析ではモデル中に組み込んだ要因のうち量的データでは測れない4項目: 職務特性/職務経験, 支援, 評価, 教育を中心に検証を行った。なお考察に際し, リーダーシップおよびパーソナリティについては, それぞれPM理論, エゴグラムを主軸理論として用いた。
量的データの分析から, 媒介変数モデル1が最も適当であるとの結論を得た。さらにモデルよりストレスマネジメントに与えられる示唆として, リーダーシップとパーソナリティが原因変数であることから, それらを測定し吟味したうえで採用する, あるいは測定結果を管理職への昇格を検討するうえでの評価項目として考慮することが, 一つのバーンアウト発症予防の方法であると考えられた。しかし一方で, 本研究の主軸理論として用いたPM理論およびエゴグラムは「人間の行動特性の可変性」を強く主張している。これら理論における前提と質的データの考察とを併せて媒介変数モデル1を再度検討した結果, 最終的には, 教育や支援などの「企業の仕組みのあり方」が, バーンアウトの発生を左右する根本たる要因ではないか, との推論が導かれた。
近年特に労働者の精神疾患が社会問題化しているため, そうした問題を抜本的に解決することが求められている。したがってストレスに強い人間ばかりを採用することは本末転倒であり, 人によりストレス耐性の強弱が異なることを念頭に置いたうえで, 過度にストレスを感じることなく職場あるいは職務に適忚できるよう教育, 支援など組織制度や職場環境を整え, 個々人の行動特性のより良い方向への変容を促すことが, 最も望ましいストレスマネジメントの姿であるとの結論に至った。
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