本論文では, 四輪自動車において車両系と操舵系が連成していることに着目し, アクティブスタビライザと電動パワーステアリング(Electric Power Steering, 以下EPS)の統合制御システムデザインについて論じている. まず, 実際のさまざまな走行状況における問題点を挙げ, アクティブスタビライザとEPSの統合設計に求められる機能を抽出している. 次に, 制御系設計に必要なアクティブスタビライザとEPSを有するフルビークルモデルを導出し, 車両系と操舵系の連成関係を明らかにした上で, 統合設計の指針を示している. このフルビークルの力学モデルに基づいてアクティブスタビライザとEPSそれぞれに分散される制御システムを統合的に設計している. 最後に, 車両系全体の走行シミュレーションを行い, 旋回中に路面突起を乗り越えるような場面で, 車体のロール姿勢を安定化させながら, ドライバの操舵に対する負担を軽減するという機能要求を満たす統合設計の妥当性を確認している.
本論文は7章からなる. 各章の内容は以下の通りである.
第1章では, 旋回走行, 不整地路面走行といったさまざまな走行状況において車両運動上の問題点を挙げ, 機能要求と既存の制御システムの関係性を明確にしている. 制御システムの干渉によって, 旋回走行中に路面突起を乗り越える走行状況下で, 乗り心地が悪化することやドライバがハンドルを取られることが問題となることを指摘している. この問題に対応する統合制御システムデザインを行うための目的を述べている.
第2章では, 従来のアクティブスタビライザとEPSそれぞれの制御システムの機能から, 統合設計で新たに必要となる機能を挙げ, 制御システムの設計目標および妥当性の検証方法を検討している. 旋回走行時に高いロール剛性を保った状態で不整地路面を通過するような場面でも, ドライバがハンドルを取られないようにできるアクティブスタビライザ制御システムを設計する必要があることを述べている. さらに, 油圧パワーステアリング(Hydraulic Power Steering, 以下HPS)と同等に快適なドライバの操舵感を得るために必要なEPS制御システムの設計目標と定量評価指標を示している. また, 人間-自動車系でのクローズドループシミュレーションによる統合制御システムデザインの評価が必要であることを示している.
第3章では, アクティブスタビライザ付きサスペンションシステムとEPS付き操舵系を有するフルビークルモデルを導出し, 車両系と操舵系の連成関係を理論的に明らかにしている. 旋回走行中にスタビライザの剛性が高い状態で路面突起を乗り越え場合, 車体には過渡的なロール振動が生じ, その影響が車両系のタイヤを介して操舵系のステアリング軸まわりに外乱として作用することを示している. この車両系と操舵系の連成関係から, アクティブスタビライザとEPSそれぞれに分散される制御システムを統合的に設計する指針を検討している.
第4章では, 車体に生じる過渡的なロール振動の応答抑制を目指したアクティブスタビライザの制御システムデザインを行っている. 従来のアクティブスタビライザの制御系は, 旋回走行時に車体に発生する定常ロール角を低減することを目的としていた. これに対して本論文では, EPS制御系との統合設計を図るためには, 過渡的なロール振動の抑制が必要となることを明らかにしている. 線形2次形式の評価関数に基づく最適制御理論を適用し, 定常ロール角の低減と過渡的なロール振動の抑制ができるアクティブスタビライザの制御系を設計している.
第5章では, アクティブスタビライザを用いて過渡的なロール振動を抑制することで, 操舵感重視のEPS制御システムを統合的に設計できることを示している. 一般にEPSの制御系はHPSと同様な快適な操舵感を得, 車速に応じて適切にドライバの操舵をアシストすることが求められる. そこで, 車速とステアリング軸のセンサトルクに応じて最適なEPSの制御器を逐次導出できるゲインスケジュールド(Gain-scheduled, 以下GS)制御を適用している. 減衰重視のEPS制御システムを設計することで, 過渡的なロール振動によってステアリング軸まわりに生じた外乱に対するドライバへの負担を軽減できるが, 操舵時のハンドルの切り戻しが遅れてしまう. 統合制御設計では, アクティブスタビライザを用いて過渡的なロール振動を抑制することによってドライバ操舵感を重視したGS制御器を設計できることを示している.
第6章では, ドライバモデルを考慮したレーンチェンジシミュレーションおよび不整地路面での旋回走行シミュレーションを行い, 統合制御システムデザインの妥当性を確認している. 提案する統合設計を行うことで, 旋回走行時のロール角と操舵トルクを低減でき, かつ不整地路面でドライバの操舵に対する負担軽減と乗り心地向上を図れることを示している.
第7章では, 本論文の結論と今後の展望を述べている.
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