去る2011年3月に発生した福島第一原発事故よって, 電力会社は大きな損害を被っただけでなく, 広域にわたる電力不足の問題が発生した. これらの原因のーっとして, 原子力発電システムの確率は低いが, 大規模な損害を生じるリスク(以下, 安全性リスク)を過小評価していたことが挙げられるこれまで, 日本のエネルギ一政策として, 3E(Economic growth, Energy security, Environmental protection) が掲げられてきた.
しかし, 原発事故以降の電源構成の割合を決定する電源ポートフォリオ問題を考える上では, 3Eに加えて安全性の指標を導入する必要があると考えられる. これまでの関連研究では, 石炭火力, 石油火力, LNG火力から構成される化石燃料エネルギーと新エネルギーと水力から構成される再生可能エネルギーのエネルギーセキュリティや環境性における不確実要因を定義し, 安全性リスクを考慮して電源ポートフォリオを最適化する研究がなされてきた. しかしながら, 本研究で問題としている原子力の安全性リスクを考慮し, 化石燃料, 再生可能エネルギーを含めた電源ポートフォリオの最適化を検討した研究は見当たらない.
本研究では, 化石燃料, 原子力, 再生可能エネルギーの電源について, 3Eに関連する不確実性要因を考慮するとともに, それらが持つ安全性リスクを最適化する電源ポートフォリオを決定することを目的としている電源ポートフォリオは, ある信頼水準を超える損失の期待値をリスク尺度とするCVaR (Conditional Value at Risk) を安全性の指標として用いて, それを最適化することによって決定するまた, 平均からの分散をリスク尺度とする平均・分散ポートフォリオの結果と比較分析を行うことによって, 電源ポートフォリオにCVaR最適化を用いることの優位性を検討している.
最適化計算の結果では, 同じ収益性のもとではCVaR最適化ポートフォリオの方が再生可能エネルギーを中心により多くの電源を取り込み, 電源の安全性を考慮する際の優位性が示されている. 事業の意思決定を複数のシナリオで評価するリアルオプション理論にて算出された原子力の最適廃止タイミングを考慮した平均・分散ポートフォリオでは, 原子力の減少分は化石燃料エネルギーで補われるそれに対して, CVaR最適化ポートフォリオではその減少分は再生可能エネルギーによって補われる. また, 石炭火力, LNG火力は中・長期的に安定的に収益性のある電源として多く活用されるとしづ結果を得ている. 石油火力, 原子力に関しては収益性と安全性が低く, 時聞の経過に伴って, 次第にその割合は減少してしベ電源となると推測されている.
以上より, 本論文では電源の安全性リスクの問題に対して提案した電源ポートフォリオのCVaR最適化の有効性が示されている.
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