日本では1950年代より,国内の航空ネットワークを早急に整備することを目的とした空港整備法と空港整備計画が策定され,空港建設の財源確保を目的に作られた空港整備特別会計によって,日本全国に多くの空港が建設された.地域航空システムは,交通ネットワークの維持,ナショナルミニマム(移動権)の確保,地域経済の活性化の役割を担うことから,地方には欠かせないものとされてきた.
しかし近年では,日本存在する98の空港の内,その多くが赤字であるという試算が明らかにされ,廃港の危機にある地方空港も存在する.国内航空路線では,大手航空会社による不採算路線の廃止と多収益路線のへ資源集中が進み,地方路線の衰退が進んでいる.衰退が進みつつある地方の航空路線の維持の役割を担っているのは地域航空会社である.その地域航空会社においても赤字が先行し,地方公共団体からの赤字補填が継続されている.本研究の目的は,地域航空システムをより安定させるビジネスモデルを提案することにある.
地方空港・地域航空会社の赤字の要因は,運営コストに見合った営業収入が得られないことにあり,旅客需要が運営に必要な維持管理経費を満たしていない.この問題を改善するためには,旅客需要の増加と運営に関する維持管理経費を軽減することが必要となる.
過去の先行研究では,DEA(Data-Envelopment Analysis)などにより,空港運営の効率性の評価が行われている.また,旅客需要増加のための施策としては,能登空港の搭乗率保障制度などにより,地方路線の需要増加のための努力が行われてきた.しかし,空港・地域航空会社の運営に関する維持管理経費を軽減させるための施策に関する研究は行われていない.本研究では,複数の地方空港・地域航空会社を一括して運営するビジネスモデルによって需要の変動を安定化させ,運営に関わる維持管理経費の負担を軽減させることを目指す.ビジネスモデルの評価にはポートフォリオ理論を用い,旅客需要の変動のリスクを定量化する.
本研究では,以下のことが明らかとなった.地方空港が抱える問題点は,空港運営における事業主体の相違による空港の収支構造の脆弱性と,空港を単体で運営することによる規模の経済性の欠如である.地域航空会社が抱える問題点は,航空会社の路線における旅客需要の低さと,保有機材数が少ないことによる規模の経済性の欠如であること.ポートフォリオを利用して旅客需要のリスクを定量化して評価することにより,地方空港の一括運営及び地域航空会社の一括運営を行うことで,組合せによっては,年間の旅客需要が変動するリスクを安定化すること.地方空港の事業主体の一体化について,空港関連企業による商業収入の利益配分を行うことで,これをもとに空港使用料等の低廉化を図り,利用促進に繋げることができること.地域航空会社の一括運営に際して,企業間の空路運航の意思や目的の違いが,一括運営の実現を妨げる可能性があることが明らかとなった.
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