溶接などの工業的プロセスにおいて問題となる, 表面張力に及ぼす雰囲気酸素分圧の影響を明らかにするため, 電磁浮遊させた溶融金属液滴に液滴振動法を適用し, 雰囲気酸素分圧を制御した条件で測定を行っている. 電磁浮遊法では, 液滴の形状が卵形に変形し, 振動周波数の解析が困難になるため, 真球形状を維持できる微小重力環境の利用が最も好ましい. 筆者の所属する研究グループでは, 航空機を用いた微小重力実験(PFLEX 実験: Parabolic Flight Levitation EXperimental facility 実験)を行い, 表面張力の酸素分圧依存性の解明を行っている. 本研究では, 限られた条件で行われるPFLEX実験のオペレーションをシステム工学の手法を用いて最適化することを試み, 航空機実験において特有な機首引き上げ時の過重力状態が, 酸素分圧制御に及ぼす効果について数値流体力学を用いて解析を行い, 微小重力状態ならびに過重力のいずれにおいても利用可能なガラス管利用による酸素分圧制御法を提案した.
第1章では, 表面張力測定法,および航空機を用いた微小重力下でのPFLEX 実験を実施する意義を述べる.
第2章では, システムエンジニアリングの概念を用いて, PFLEX 実験の解析を行い,実験オペレーションの最適化を行った. 航空機実験で得られる微小重力環境は20秒程度と短く, 解析的なオペレーションデザインが求められる. すなわち, 暗黙知の形式知化である. 重力加速度の変化を加味した酸素分圧制御法の検証をおこなうことが, とりもなおさず, PFLEX 実験システム全体の最適化になることをあきらかにした.
第3章では, CFD(数値流体力学)を用いて, 現状の吹き付けによる酸素分圧制御が不完全であることを指摘した. また, それに代わる新たな酸素分圧制御法(ガラス管利用)を提案し, 解析を行った. その結果, ガラス管を導入することにより, 適切な条件下では, 酸素分圧の制御性が改善されることを示した; 流入ガス速度が0.05m/s より大きく0.5m/s 以下であればよい.
第4章では, 第2章と第3章に示した結果を考察し, PFLEX実験システム全体の最適化を行った. さらに, 本研究で作成したPFLEX用計算コードの検証が, 地上実験との比較においてなされることを示した. 流体力学における相似則より, 浮力対流の強度を示す無次元グラスホフ数と慣性力を示す無次元レイノルズ数の二乗の比Gr/ Re2をパラメータとして参照すれば, 航空機上での可変な重力加速度と可変な流速を組み合わせることにより, 雰囲気酸素分圧が制御可能な条件を適切に選択できる. 本計算の妥当性が示されれば, 本計算コードを用いて, PFLEX実験における流体挙動を予測できることになる.
第5章では, 本研究で得られた結果をVモデルを用いて整理した. 今後の課題は, 本数値計算結果を地上実験の結果と比較して妥当性を実験的に検証することである.
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