日本酒産業は,古い歴史を有する日本固有の伝統産業である。創業100年を越える老舗企業が日本で最も多い業種であることがそれを物語っている。しかし,1975年をピークに消費量・酒蔵数ともにも減少の一途を辿っており,斜陽産業の1つとして数えられるほど,厳しい経営環境にある。本研究では,伝統産業の維持に向けて,持続可能な酒蔵経営を行っていくための今後の取り組みについて行動提案することを目的としている。一方,老舗企業であるほど変革が難しいと言われているものの持続可能な組織へと変革させる必要がある。酒蔵の経営に関しては,国税庁を中心にいくつかの研究報告がなされているが,組織風土や文化を変革させようとする体系的な研究はされていない。そこで,本研究では,日本酒酒蔵で働く人に対する意識調査を通じて,酒蔵内の現状と問題点を把握することが大切だと考えた。
実際には,文献調査・インタビュー調査を基に策定した組織文化形成の仮説モデルからアンケート調査質問項目を作成し,全国110社355人に対してアンケート調査を実施した。その結果,持続可能な酒蔵経営の条件となる企業評価(パフォーマンス)指標として定めた「年平均成長率」「酒の品質」「従業員満足度」の3指標に対する,調査の回答から明らかになった組織文化の関係性を分析した。得られた知見は以下の通り。
1. 「従業員満足度」と第一主成分「文化意識」が有意な正の相関 (r=0.603,p0.01)
2. 「従業員満足度」と第三主成分「多評価重視」が有意な負の相関 (r=-0.283,p0.01)
3. 「年平均成長率」と第二主成分「販売努力」が有意な正の相関 (r=0.252,p0.05)
4. 「酒の品質」と第三主成分「評価重視」が有意な負の相関 (r=0.210,p0.05)
5. 「従業員満足度」に対して,社内変革意識よりも対外意識の方が直接的に影響している(共分散構造分析結果)
6. 「従業員満足度」向上に対して「技術への自負」と「社内活気と対外意識」が大きな影響を及ぼす
7. 「従業員満足度」に対して「利益追求」は大きな負の影響を及ぼす(6,7 は重回帰分析結果)
これら結果の考察により,全国の酒蔵が共通して重要視すべき課題は「社外の人との協働」ということが明らかになった。その課題の解決案の一例として,同業者のみでなく教育機関等の社外の人との知的資源の相互活用によって新事業を創出するような状態を形成することが目的の"産業クラスター"導入をあげた。
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