本論文は、ユビキタス時代における身体動作を取り入れたデザイン言語について研究を行ったものである。研究を進めるに当たり、質的調査によって人間の振る舞いを観察し、伝統的な言語学の理論を導入した。その実践として、ユーザのニーズに合わせて住環境をコントロールするMedia Cushionのデザイン言語を設計した。
　Media Cushionは、人間が自然にクッションを扱う際の一連の身体動作と、いつ誰が使っているのかなどのコンテクスト情報を組み合わせることによって、ユーザの状況や要求を推測し、それに適した環境を演出する新しいインタフェースの提案である。システム内に、言語学の「二重分節」の理論を導入し、入力された身体動作やコンテクスト情報をベイジアンネットワークを用いて処理することによって、ユーザの状況に合わせた住環境のコントロールを可能にする。そうすることで、ユーザがスイッチを押したりボリュームを回したりという従来の操作をすることなく、自らの身体を動かすことで、その時のシチュエーションに合わせた環境を演出できるようになる。
　なお、本論文では、Media Cushionのシステムと言語性を提示するとともに、ユーザスタディを通して、Media Cushionのデザイン言語の有効性を検証した。その結果、デザイン言語が極めて有効であることが確認でき、今後の家庭内でのユビキタスコンピューティング環境を支えるデザイン原理として応用可能である展望が開けた。

修士学位論文. 2010年度メディアデザイン学 第119号