本論文は、ソーシャルメディア上で起きた市民運動に関して、国内外の市民運動がどのような性質の元に行われているのかを社会学的な視点から論じたものである。本論文では、ソーシャルメディアにおける市民運動の現象を説明するにあたって、ハーバーマスらによる公共圏研究と阿部謹也らによる世間論とを接続し、ソーシャルメディアにおける市民運動の性質の解明を目指した。
海外のソーシャルメディアを活用した市民運動事例としてはイランの大統領選挙結果に対する市民運動を、国内のソーシャルメディアを活用した市民運動事例としては東京都青尐年健全育成条例改正案に対する市民運動を具体的事例として取り上げた。
ハーバーマスは「公共性の構造転換」で、近代における公衆の討議の場である公共圏が、近代市民社会における政治秩序の組織原理として働いていたことを明らかにした。その後の研究で概念的拡張が行われ、重層的で自律的な討議の場としての公共圏を捉え直している。一方、阿部は著書「世間とは何か」で、近代化と共に解体されるはずだった世間が日本に色濃く残っていることを論じた。
本論文ではこれらの研究を援用し、ソーシャルメディアにおける空間的広がりであるハッシュタグを主にとりあげ、それらの空間的広がりがどのような性質を持っているのかを具体的事例をもとに検討した。イランの場合、ハーバーマスらによる研究で公共圏として定義付けられたような、重層的かつ自律的な討議の空間としてハッシュタグが使われていたのに対し、日本の事例ではハッシュタグによる空間的広がりは世間論で研究されたような空間的性質を数多く持っていることが分かった。
また、以上の結果を元に、ソーシャルメディアにおける市民運動を今後いかにして盛り上げていくべきかを論じた。

修士学位論文. 2010年度メディアデザイン学 第65号