政策論が普通に分析対象としている制度とは,つまりは,人為的なものなのであって,この人為的な制度要因は,これにかかわる人達の権力構造に強く依存して決められる。それゆえ,政策論のなかでは,制度の影響下にあるミクロ・レベルでの観察事実のそのほとんどが権力構造の変化に連動する制度要因とは独立ではないことを,想定して取り掛らざるを得ない。ために,政策論にあっては,前提,すなわち,"動かしがたい思考の定点"は,そう簡単には見出せず,そこでは,どのレベルの事実を前提において考えていくことが妥当なのかという問題への判断の要請が,たえず突きつけられるようになってくる。ところで本稿では,「看護労働力不足」という題材の政治経済学的性質の検討をとおして,日本の医療保障制度を対象とした政策論を展開する。そして,慢性疾患患者およびその親族の満足度を高めつつ,看護職員を含む医療従事者に時間的ゆとりをもたらし,かつ将来的には労働力不足が危惧されている国民経済の安定成長を達成する目的のためには,第1に,病院病床-これは看護労働力需要を主に派生する-から,福祉施設-これは看護職員と介護職員とのチーム・ケア需要を派生する-へのスクラップ・アンド・ビルド政策をも併用しながらの福祉施設の急増政策,第2に,介護職員の急増政策,第3に,チーム・ケアのコーディネーター養成制度としての看護職員教育制度への再編政策に,積極的に取り組む必要のあることを論じる。
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