保険取引におけるモラル・ハザードの問題は,情報の非対称性と自由裁量性がさまざまな側面で存在する限り,不可避的に発生する。モラル・ハザードの性格把握については,さまざまな立場でなされているが,これを放置することになれば,いわば「囚人のジレンマ」と類似した現象に陥ることになる。ここにおいて,モラル・ハザード回避のための保険制度設計を考えなければならないが,そこではエイジェンシー理論を応用して,総エイジェンシー・コストを最小化する観点が必要である。しかし併せて,保険制度の信頼性を維持するためにも,コストをかけて情報入手してモラル・ハザードを排除する努力を払わなければならない。そこで,ピグー的課税/補助金政策と同様の方策を料率体系の中に積極的に導入することが,モラル・ハザードを効率的に抑止し,さらにコストを効率的に内部化する有効な手段であると考えられる。
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