アメリカの「保険危機」を紹介する文献は数多いが,それを経済学的視点から論じたものは必ずしも多くはない。そこで本稿では,「保険危機」を複数の視点から捉え直し,それを経済学的に再検討することにした。まず最初に保険危機の要因として多くの文献に紹介されているものを整理し,主要な要因を絞っていった。そして,アメリカ独特の制度・環境,賠償責任保険の特殊性,過度のキャッシュフロー・アンダーライティングおよびそれに付随して行われた他の保険への価格転嫁の影響などを経済学的に分析した。また,再保険市場の混乱が保険危機の最後の引き金になったという新たな方向からの分析を経済学的に再検討した。こうすることによって,「保険危機」が経済学の理論的妥当性を証明する例証としても適切であること,また,今までいわれてきたアメリカ的事情・背景の特殊性も一般化できる部分があること,そしてわが国でも「保険危機」をもたらす要因が生まれようとしていることなどを明らかにしていった。このような方法を採用することによって,経済学,特に「不確実性の経済学」の有効性を再確認するのが本稿の目的である。
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