大量生産,官僚的コントロール,長期雇用,ヒエラルキー組織で代表される「工業型モデル」の経営は,急速に変容している。全国・全産業の平均を見る限りその変化は大きく映らないかもしれないが,競争的な分野や先端を行く大企業ほどそのスピードは速い。そして平成不況を契機として,終身雇用や年功賃金の見直しの議論が活発化してきた。大企業セクターにおける人的資源管理のパターンは,いくつかの側面で大きく変わっている。内部化されていた企業内労働市場は,企業グループの労働市場へと拡大している。マニュアル・スキルの職場訓練の必要性は薄くなり,企業内教育では帰属意識を高めるために企業文化が強調される。かつてもてはやされたゼネラリスト志向のジョブ・ローテーションは,スペシャリスト志向や仕事を選ぶ人たちの増加によって修正されつつある。そして何よりも,新卒採用,職場訓練,企業内昇進の延長である長期雇用に,中高年層の早期退職や出向を含むバリエーションが現われてきたのは今後の方向を示唆しているようだ。人材の企業外との接触や交流が促進されると,処遇についても,より短期的な人事考課や成果に応じた報酬が必要とされるだろう。他方,注目すべきは,大企業の典型的な年功賃金システムは,ラベルが何回も貼り替えられながらあまり実質的に変わっていないことである。業績や能力は,技術進歩や学歴の高度化によって若手の方が高まりが大きいはずなのに,報酬は顕著に右肩上がりである。ブルーカラーよりホワイトカラーに手厚く,女性が高報酬の役職者や役員にきわめて少ないのは,産業社会に長く組み込まれた儒教思想の影響かもしれない。
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