近年，日本ではシェアリングエコノミーの拡大と訪日外国人の増加により，新たな宿泊形態である民泊が注目されている。住宅を活用し宿泊サービスを提供する民泊の施設数は年々増加傾向にあったが，営業許可をとらずに民泊を行う違法民泊という問題も同時に発生した。そこで日本政府は2018年6月に住宅宿泊事業法を施行し，日本における民泊への規制を強化した。法律施行後も民泊の施設数は増加傾向にあり，民泊に対する関心が高まっている一方で，民泊施設の増加が既存の宿泊施設であるホテルや旅館の稼働率を減少させている可能性がある。また，民泊施設の増加に伴い価格競争による宿泊価格の引き下げも起きている可能性がある。そこで本稿では，宿泊市場と民泊市場という双方の観点から民泊事業の参入及び民泊施設の増加による影響を捉えるべく，2つの実証分析を行った。まず，民泊施設の増加が既存のホテルや旅館の稼働率に与える影響を，逆の因果性を考慮した固定効果操作変数法を用いて分析した。分析の結果，民泊施設の増加は旅館，ビジネスホテル，シティホテルの稼働率を減少させる可能性が示唆された。次に，民泊施設の増加による民泊施設同士の価格競争の在り方及び価格決定要因に関してヘドニックアプローチを用いて分析した。その結果，価格競争による宿泊価格の引き下げは起こっておらず，価格には設備や施設形態，地域が影響を与えていることが示唆された。

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