3年計画である本研究の目的は、近世オスマン帝国都市の商工民・同職組合の実態を解明し、社会史的検討を加えることである。3年目となる今年度は遺産目録史料の分析に重点をおいた。
近世オスマン帝国都市の商工民・同職組合に関する近年の研究では、組合成員や商工民個人の実態解明が重要な課題のひとつである。同職組合の組織や制度に主眼を置きつつその厳格性を強調する傾向にあった従来の見方を再検討する試みとして、商工民の生活や活動のほか、同業者間の経営・経済格差、特定業種に従事する商工民家系などの実態が徐々に明らかにされてきている。遺産目録はそうした課題の克服に必要不可欠な史料である。
こうした研究の現状と課題を踏まえ、以下のような分析・検討を行った。まず未公刊史料であるイスタンブル・アスケリー法廷487台帳の内容を分析し、この台帳に少なくとも45人の商工民に関する遺産目録が収載されている事実を明らかにした。それらのなかから皮鞣工イブラヒム・ビン・アリーに関する1781年12月24日付の遺産目録に着目し、関連する4件の裁判記録と合わせてより詳細な分析を試みた。そこではこの皮鞣工の遺産の実態や相続の過程を明らかにしつつ、経済活動や家族・親族関係、同業者との関係を中心に、その生活について可能な限り検討を行った。
こうした分析と検討の結果、以下の点が明らかとなった。皮鞣工イブラヒムの死亡時の財産は上記45人の商工民のうち12番目に多く、また掛け取引や従業員の雇用、多数の金貨の所有といった生前の形跡がみられた。このことから彼が経済的にある程度余裕のある富裕な商工民であったと考えられる。ただし、その背景には同業者である義理の兄弟による経済的支援があった。また、親族か否かを問わず多数の皮鞣工が遺言指定管財人や代理人、証言者などとしてイブラヒムの遺産相続に関わっており、私生活における同業者の相互扶助や社会的結合がみられた。
The present research is the three-year plan. The aim is to study the social history of the retail-artisans and the guilds in the early-modern ottoman cities. In this final year of the plan, the analysis of inheritance records was focused on.
In the recent researches, how guild members or retail-artisans lived has been an important question.
To reexamine the view which has emphasised on the importance of the organization and institution of guilds, researchers have revealed retail-artisans' lives, management and economic differentiation among guild members, and families succeeding to the same profession. Inheritance records are a essential historical resource to resolve the question mentioned above.
This study made some examination as follows. Firstly the İstanbul Askeri court register numbered 487 was analyzed. This revealed that inheritance records of at least forty five retail-artisans were involved in the resister. Secondarily, of the forty five records, one of İbrahim bin Ali tanner on December 24, 1781 was analyzed in more detail, with four judicial records. Through the analysis, his inheritance and the progress of the succession was revealed, and his economic and social life was examined, especially his business, the structure of his family and his relationship to the guild members.
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