単細胞真核生物Euglena gracilis(和名:ミドリムシ)が生産する貯蔵脂質ワックスエステルは, 工業的に精製することでジェット燃料として利用できるためバイオ燃料リソースとして期待される。このE. gracilisは好気条件下で光合成により独立的に炭素同化を行い, この生物独特の貯蔵糖パラミロン(ß-1,3-グルカン)を細胞質に蓄積する。この後, 嫌気条件下に置かれると、パラミロンを分解し, ミリスチルミリスチン酸(14:0-14:0)を主成分とするワックスエステルを細胞内に蓄積する。このパラミロンからワックスエステルへのユニークな合成の過程において, エネルギー消費を伴わず, 解糖系での基質レベルのATP獲得が可能であるため, この合成経路は『ワックスエステル醗酵』と呼ばれる。その他にもE. gracilisはバイオ燃料生産に有用な環境耐性を複数持つためオイル生産生物として有望視されている。しかし, ワックスエステル合成酵素やパラミロン合成酵素などのワックスエステル発酵経路に関与する酵素やその調節メカニズム, そして核ゲノム配列などが依然として不明であり, 遺伝子レベルでの研究の遅れが大きな問題の一つとしてあげられる。そこで本研究では, RNA-Seqを用いた網羅的な遺伝子発現解析を行うことで, ワックスエステル発酵調節メカニズムの解明を目的とする。好気条件•嫌気条件で培養したサンプル間での発現量比較を行ったところ, 有意に発現変動している遺伝子のなかからパラミロン合成酵素遺伝子候補配列を2つ見出した。共同研究先でのwet実験によりノックダウン株が作成され, 候補配列のうちの1つで顕著なパラミロン蓄積量の減少が確認された。より詳細な酵素の活性を確認するため, 組み換え体作成やEuglenaでの過剰発現株の作成が予定されている。まとめとして, 今回の発現変動解析によって予想された全ての遺伝子をワックスエステル醗酵経路上に可視化した。
|