企業活動の国際化、株主価値を意識した企業経営の必要性の高まりなどを背景とし、企業活動における経営者が果たす役割の重要性は大きくなっている。企業の経営を効率的に行うためには、多様な側面の能力が必要になると考えられるが、経営者の意思決定は事業活動における重要な意思決定に密接に関わる可能性が高いことから、経営者の能力は企業価値に大きな影響を与えることが予想される。これらを背景とし本研究では, 経営者の能力と企業価値の関連性について明らかにすることを試みる。
本研究では、経営者の能力の中でも、学力試験により測られる学力、および経営において重要な役割を果たす忍耐力の2点に焦点をあて分析を行うものとした。学力および忍耐力の代理変数としては、数多くの候補が考えられるが、本研究では、出身大学、誕生月を代理変数として採用し、分析を行なった。本分析においては, これら代理変数を用い、経営者の能力と市場の評価の関連性について分析を行なった。また、当分析を通じ、経営者に求められる資質や特徴についても考察を行なった。
対象データに関しては、2009年8月末時点での東証1部の上場企業のうちデータ取得可能なもの1,115社を対象とし分析を行なった。分析においては、売上や負債比率、時価総額等の基礎的な企業情報に加え、社長持ち株比率、前職の有無等の経営者に関わる情報を含む23の変数を基に分析を行なった。また、本分析では、株式市場の評価をポートフォリオ分析により計測することも試みるため、個別企業の株式価格の時系列データも使用した。
構築したデータベースを基に分析を行なった結果、(1) 経営者には, 学力に秀でる経営者と忍耐力に秀でる経営者がいる可能性のあること、(2) 高い学歴を持つ経営者、早生まれの経営者を有する企業ほど株式市場において高い評価を獲得している傾向にあること、(3)それぞれの資質は基本的には独立しあう可能性があることなどの興味深い結論を得た。
本研究では、経営者の能力の一つの側面のみに着目し分析を行なったが、多様な側面を考慮した分析や異なる期間における分析は今後の課題として挙げられる。また、本分析では、優秀な人材が健全な企業に集中するとの要因が存在している可能性もあることから、これらを考慮した詳細な分析も今後の課題として挙げられる。

修士学位論文. 2011年度経営学 第2622号