高まる環境・エネルギー制約の中, 新興国のモータリゼーションの進展を背景に乗用車部門における対策が重要になっており, EV(電気自動車)を始めとした様々なCEV(クリーンエネルギー自動車)の技術開発が世界中で進められている. 世界的にEV100%を掲げる国が多い一方, 電源構成の悪い中国やインドではEVは向かないなど, 国や研究者により様々な議論があり, 決定的な方向性は示されていない. しかしながら資金は限られており, その中で効率的なCEV導入とCO2排出量削減を実現するためには, 将来の最適車種構成やCO2削減効果を明らかにし, 意思決定者の技術戦略の指針となる結果を示す必要がある. 一方, CEVでは使用される金属の種類や量が変化するが, 一部の金属は可採年数や偏在による供給不安が指摘されており, 中でも銅の供給リスクが高い. したがって, 金属資源を考慮した車種構成の分析が必要であるが, 既往研究は経済合理的な車種構成の分析に留まる. また, CO2削減量とその削減に必要となる銅量の関係を明らかにしておくことが望ましい.
本研究は, はじめに, 各車種のコスト・CO2排出量原単位・金属資源量に基づき, 世界6地域の最適車種構成を線形計画法により導出する最適化モデルを構築し, シミュレータをExcel上に実装した.
次に, 事例研究として銅を対象に, 2005年排出量を基準とした各年次のCO2削減量を制約値とし, 総コスト(車両購入費用, 保有期間費用の世界総計)あるいは金属消費量最小化の2つのケースを目的関数として定義して最適化計算を行った. なお, これらの最適化問題は, 両ケースともに主問題と双対問題の関係であり, 目的関数と制約条件を入れ替えても同じ最適解が得られるが, 本研究では金属資源を考慮する場合としない場合の最適ポートフォリオの違いを比較することを1つの目的としていることから, その比較を可能とするために, 制約条件をCO2削減量に統一した上で, 異なる2つの目的関数を定義し, 両ケースの最適化問題を解いた.
結果, 総コスト最小化ケースでは, 主としてEVとPHEV(プラグインハイブリッド自動車)を導入することが最適となった. 他方で, 銅消費量最小化ケースでは, EVは同様に選択されたが, PHEVではなく銅使用量が尐ないFCV(燃料電池車), CDV(クリーンディーゼル車)を導入することが最適となり, ポートフォリオが大きく異なった. 銅の供給リスクが指摘されている現状では, 費用対CO2削減効果が高いPHEVだけでなく, FCVやCDVの導入も検討する必要があると言える.
最後に, CO2削減量とその実現に必要となる銅量の関係を対応付けることにより, 銅資源制約の評価指標を得た. 仮に, 2050年排出量目標値を2005年比15%削減とする場合, それを実現する上では, 2040年に2010年時点での需要の4倍以上となる約400万トンまで需要が増加し, 現状に基づき供給量を予測すると, 約170万トン(EV約3300万台分)近くの銅が不足する可能性がある. この結果は, 政府の銅確保戦略, 企業の代替技術開発戦略立案の指針として生かすことができると考えられる.
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