2011年7月の地上デジタル放送移行に伴う周波数再編により、空き地となった周波数を活用する「携帯端末向けマルチメディア放送」の立ち上げが総務省の政策として進められている。しかし、通信インフラを活用した大容量の動画配信ビジネスに代表されるように、デジタルコンテンツをめぐる各サービス間の競争は厳しさを増しており、マルチメディア放送はサービス開始前から厳しい状況に置かれている。
マルチメディア放送の特徴として、従来型の放送コンテンツ（動画）だけでなく、電子新聞や電子出版、音楽、ゲームなど、これまでの放送にはないコンテンツを多角的に配信する水平分離型のサービスが可能であるが、これまでの議論において、放送は放送、出版は出版という別々の文脈で認識されることが多く、垂直統合型の発想が色濃く残っている。
そこで、本稿では、他のサービスにはない、マルチメディア放送の多角的利用に向けて、2011年の「地上デジタル放送移行」と2010年の「電子出版元年」という2つの大きなムーブメントにまたがる形で展開してきた広報活動戦略の独自性と妥当性について明らかにしたい。当初はKMDが設立した「AMIOフォーラム」の内部に各プレーヤーを集めて議論を活性化させる活動を展開する戦術を採用した。
しかし、マスメディアのデジタル化にはしがらみも多いため、自らの団体にプレーヤーを集めるだけでなく、電子出版など様々な業界団体と連携を図る戦術に転換し、幅の広い活動を展開することができた。
これらのアプローチの有効性について、業務の評価、露出の評価、目標達成度の評価の3点から分析する。

修士学位論文. 2011年度メディアデザイン学 第168号