プルーストの小説『失われた時を求めて』のなかで、マネは想像上の画家エルスチールの同時代人として扱われている。実在する画家の名や作品が小説のなかにあらわれる場合、その多くは、登場人物や物、情景、状況などが想起させる絵としてあげられ、描写に芸術的厚みを付与する役割を果たしている。クレープ・デシンを身に纏ったオデットは、ボッティチェルリの描くチッポラと重ねられ、パランシー氏の鼻はギルランダイヨの描く老人の印象深い鼻と結びつけられる。またバルベックの海岸は、ホイッスラーの描くオパール色の海と合流するという具合である。　しかし、画家の名とタイトルが明示されるマネの《オランピア》（1863）は、小説に同時代性を与えるはたらき以外に、その扱われかたにおいて、プルーストにとってなんらかの心的意義を有するように思われる。この絵に託された意味を探りつつ、彼の精神性を形づくっているものの見かたの一端を明らかにしたい。