パリのオートクチュール・ファッション・ウィークで発表される高額なあつらえ女性服を含め, 19世紀半ばから一貫して世界市場を拡大してきた「ファッション・デザイナーの創作」を長く対象外としてきた斯学において, 衣服や服飾雑貨は買回品に位置付けられていた。しかし, オートクチュールを代表とする顕示的消費の分析は, ミクロ経済学では解けないマーケティング管理に課せられた重要なテーマの1つであり, また, オートクチュールの顧客になり得る消費者集団は, マーケティング研究が無視できるものではないであろう。さらに, オートクチュールを有し, しかも (同じブランド名の) 新作既製服さらに服飾雑貨等の「マイ・ラグジュアリー」市場も拡大する企業群を対象に含まない場合には, いわゆる快楽消費研究には大きな不足が生じるであろう。オートクチュールも有する, ファッション業界の現代のコングロマリットは一般的なグローバル企業と何ら変わらない経済的行為者であり, 情緒的な価値や文化的な価値にもまして財務的強さが絶対的な必要条件であることがわかる。

堀越比呂志教授退任記念号
論文