本稿は, 前稿「中国労働投入の推計(1) : 産業別就業者数の推計」に続き, 中国の産業別マンアワー, 産業別賃金の推計について報告する。マンアワーは労働の質を反映する投入量を測定するうえで不可欠な指標となっているにもかかわらず, 中国に関しては必要なデータが不足しているため実際の推計はまだ少ない。一方, 労働コストの推計も多くはなされておらず, したがって, 労働コストの増減によって製造業やサービス業の労働投入量に与える影響を実証的に裏付ける研究も少ない。本研究では, マンアワーと就業者所得に対して, 就業者数の推計と同じように, それぞれ産業別×所有制別×性別×年齢別×教育歴別の5次元マトリックスを推計した。
マンアワーの推計に関しては, 産業別1人当たり週労働時間の推計, 1人当たり年間労働時間の推計, 産業別×所有制別×性別×年齢別×教育歴別人員の格差率の算出, 出稼ぎ農民工の労働時間の推計といった段階を踏んで行った。1人当たりの週平均実労働時間は1981年の時点で44.5時間だが, 2010年には48.27時間に上昇した。こうした変化は「労働法」の公布や週休二日制の導入とは無関係で, むしろ景気が大きな要因であることがわかった。産業別でみると商業や建築業, 採掘業の労働時間は相対的に長い。統計制度上の問題によって生じた統計から漏れた一部出稼ぎ農民工の労働時間の推計は, 基本的に中国社会科学院農村発展研究所が全国14の省・直轄市・自治区で実施した「農業労働力利用と転移情況調査」・「農家調査」,「全国農村固定観察系統」などの調査結果に基づいて行った。農民工の週労働時間は, 1980年代から1990年代にかけて一般的に長く, 2000年代以降徐々に減少している。また, 若年労働者の労働時間は中・高年より長く, 男性の方が女性より労働時間が長いという結果を得た。
中国の就業者所得のデータが就業者数データ以上に少ないなか, 政府シンクタンクの調査から個人レベルの研究結果まで様々なデータソースを利用して, 政府発表の就業者所得をSNAベースに照準を定めて調整を行った。特に, 政府発表の国有部門の賃金総額には社会保障報酬が含まれていないので, 調整係数を算出してSNA産業連関表ベースと一致するように調整した。一方, 所有制別, 男女別, 年齢別, 教育歴別における賃金格差に関しては交差分類された各属性別の賃金格差率を算出した。男性の場合, 年齢層が高ければ収入も高くなるのに対して, 女性の場合は, 若年層の収入が比較的高いという推計結果を得た。所有制別・産業別時間当たりの名目賃金を示すものである。ほぼ全期間において非国有部門における平均賃金の上昇は国有部門のそれを上回っていたが, 2005-2010年の間のみ国有部門の賃金上昇が非国有部門を大幅に上回った。これは, 国有企業改革の効果として成長性・収益性の面では大きく改善された可能性が十分にあったと思われる。
最後に, 労働の数量変化, 労働の質変化, 労働の総合変化を国有部門と非国有部門に分けてそれぞれ集計してみた。国有部門の数量的投入は1997年まで増加傾向にあったが, この年が境目となって一転して低下している。労働量の減少は国有企業の民営化と企業自身の人員削減を反映するものである。労働の質は2010年の時点で, 1981年に比べ1.12倍になっており, 年率で平均0.4%向上した。一方, 非国有部門の労働投入量は経済改革以来3.78倍に増加した。質的には1981年に比べ1.15倍となって, 年率で0.55%向上している。
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