これまでに, 資産負債観という概念の現行会計実践に関する説明可能性を巡って, 特別修繕引当金(『三田商学研究』第54巻第2号・第4号)および製品保証引当金(第54巻第6号・第55巻第1号~第4号)を検討したので, 次に, 資産除去債務を取り上げることにしたい。ここでは, 特別修繕引当金の会計処理と比較することにより, その論点を明らかにしよう。
特別修繕引当金に関する通説は, 言うまでもなく, 負債性引当金説であるが, この見解の計算対象構成上の特質は, 生起した経済事象の時系列的な流れからすれば, 「損傷があったので修繕が必要になった」と考えられるべきなのに, その損傷の事実は看過したまま, もっぱら修繕の事実だけに注目している, という点にある。私見によれば, こうした計算対象の理解の仕方にこそ, 特別修繕引当金の理論的欠陥の原因が求められるのであるが, しかし, 資産除去債務に関する現在の議論も, それとまったく同じ誤りを犯しているのである。すなわち, 有害物質の除去が必要になるとしたら, 本来, その以前に, 有害物質が排出されていなければならず, そのことが, 何らかの形で表現されていなければならない理である。しかるに, 資産除去債務に関する今日の議論は, その有害物質の排出という事象には目を背けたまま, 有害物質の除去という事象の処理だけにかまけているのである。この点では, 資産除去債務の議論は, 特別修繕引当金のそれと軌を一にしているのである。
資産除去債務の議論と特別修繕引当金のそれとは, このように, 計算対象の把握の仕方の側面については, 同質性が認められるのであるが, 他方, 計算目的の構成の側面に関しては, 異質性が見出せるのである。すなわち, 特別修繕引当金については, 当期収益との対応という観点から, 負債性引当金の計上が説明されている。したがって, 実質的にはともかく, 理念的には, 妥当な損益計算を遂行するために, 特別修繕引当金が, 計上されるのである。そのかぎりで, その計算目的は, あくまで損益計算にあるのである。しかるに, 資産除去債務は, 損益計算のためというより, 負債の全貌表示(資産・負債のリスク・実態表示)を達成するために, 計上されるようである。結論的には, そのために, 損益計算が, 崩壊してしまうのである。そのかぎりで, いわば資産・負債のリスク・実態表示のために, 損益計算が犠牲にされたと言えないこともない。
このように, 資産除去債務に関しては, 計算対象の構成の側面と計算目的の側面とを取り上げなければならないが, 後者は次号で取扱うとして, 本号では, 前者を検討する。資産除去債務に関して, 今日, 制度的に認められている処理は, 資産負債両建方式であるが, その計算対象の把握の在り方に関する問題を, 資産除去債務勘定の処理の妥当性(オンバランス化の根拠, 割引現在価値評価の根拠, 「支払利息」計上の根拠), 設備資産勘定の処理の妥当性(資産除去債務相当額の設備資産の取得原価への算入の根拠, 取得原価算入額に関する減価償却の根拠), そして有害物質除去時の処理の妥当性の3点に纏めて, 検討することとしたい。
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