株式会社の発展につれて株式保有の分散化が進み,ここに所有と経営の分離,さらには所有と支配の分離が達成されて,いわゆる経営者支配の状況が現出するというのが,近代株式会社に関わるバーリー=ミィーンズ以来の伝統的な状況認識であった。だが,近時にかけて株式所有の非個人化が急速に進み(法人株主ないしは機関株主の台頭),従来のいわば一元的・単線的な株式分散化の構図は少なからぬ修正を迫られてきている。こうじた状況を踏まえて,「企業を支配するものは誰か」があらためて問われるようになってきていると言ってよい。そこでは所有者(株主)と取締役(会)および専門経営者との関係とそれぞれの在り方が議論の中心となっているが,今日では単にそれだけではなく,それ以外のステイクホルダー(利害関係者)との関連や地球環境の保護の視点を含めて,様々な論者により,様々な角度から展開されてきている。コーポレート・ガバナンス(企業統治)をめぐる論議がそれであるが,本論は,こうした論議の背景とそこでの基本的な論点について素描し,併せて具体的な経営行動との関連について若干の考察を試みていこうとするものである。そこでは,今日の企業は単に投資家個人の私的な存在としてではなく,多くの利害関係者の利害に関わる,すぐれて社会的な広がりをもつ存在であり,従って企業のガバナンス問題もそうした視点から取り上げていく必要があること,また具体的なガバナンス・メカニズムが一国の歴史的ならびに社会的諸条件によって少なからず異なってくることから,経済・社会のグローバル化が急速に進むなかで,各国におけるガバナンス・メカニズムと経営行動に対する影響力について比較・検討していくことの必要性が増大してきていること,その点,比較企業統治制度論の視点が重要な検討課題となってきていること等が明らかにされるであろう。
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