わが国の私立大学では,私立学校法に基づく「決算書」と会計基準に基づく計算書類がある。様式の指定のある計算書類は,交付された経営費補助金の補助効果を測ることを前提としているので,資金収支内訳表で学校・学部別の収支を明らかにしているが,その反面で,会計方針や会計制度の説明などは,貸借対照表に対する5項目の注記を除くと,ほとんどこれに記載されない。また,一般に公開されないために,学校の経営状態を開示するという性格をもっていない。これに対して,アメリカにおける私立大学の決算書では,部門別収支を明らかにしていないが,注記事項が長文で多岐にわたり,決算書の読者に適当な判断材料を与えようとする傾向が強い。入手したアメリカの私立大学11校の決算書では,決算書に対する注記として,重要な会計方針の概要が,証券投資,大学の発行する債権,借入金,設備資産,退職年金,偶発債務,寄付の申込,その他の情報を開示している。このうちで,借入金と設備資産は,わが国の借入金明細表と固定資産明細表がほぼ相当しているが,その他の部分についての記載はほとんどない。アメリカでは非営利組織体と営利企業とを会計上で全体的に区別せず,必要なところだけ区別するという見解があることも,大学が債券を発行しているために会計情報を開示しなければならないことも,開示が進んでいる理由である。わが国では,会計を開示しようとしない傾向か強いので,少なくとも補足資料として,重要な会計方針の概要,預金,特定預金(資産)及び有価証券の明細,退職金(年金)と退職給与引当金の明細,偶発債務と寄付の申込の状況を整理して記載し,少なくとも意思決定者である理事会に情報として提供すべきである。
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