本稿は昭和十八年十一月三日印度支那研究會の例會に於ける私の報告に因出する。同會は私の報告を速記する勞をとられ加筆を求められたが、何分御話することに不馴れな私であるから極めて不十分であつた。故に今その時の内容に基き若干の訂正と其後の知見を加へ本稿を草し終へた。然し淺學にして且つ日常の多忙な業務に迫はるる私であるから不備は多々存すると思ふ。たゞ拾數年來香料業界に生活する私の體驗と東西交渉史に寄せる史趣からなる貧しい一編が南海香料史の一考察として識者の一助たるを得ればと念じ、加へて博雅の叱正を受くる機會を得んことを願ふのみである。終りに本稿執筆の動機を與へられた印度支那研究會、並びに發表に紙面を併せられた三田史學會に感謝の意を表してやまぬ。