その解決に10年という年月を要した日本長期信用銀行事件。流れた年月を考えると事件の複雑性を想像してしまうが, 当該事件における争点は「公正ナル会計慣行とは何か」という, 言葉にしてしまえばシンプルなものであった。しかし, この争点は, 解決にあたって, 法律学と会計学の双方の観点から考察が必要であることなどから, その言葉以上の複雑性を有する。「慣行」という条文上の文言を巡って, 法律実務家と会計実務家の認識の違いもあるようである。本稿では, 「公正ナル会計慣行とは何か」という点について, 法律学, 会計学双方の観点から分析している。その過程では, 特に, 上記事件における最高裁判決の補足意見, イギリスにおける会計及び監査の規制を参考にして, その正体を明確にすることに努めた。
私見としては, ある基準が「公正ナル会計慣行」といえるには期間的, 継続的要素, 実務上の許容性, 明確性が認められる必要があり, それらが認められる場合であっても, 真実性の原則の観点から, 「公正ナル会計慣行」失格という事態があり得るというものである。
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