組織ケイパビリティの研究は, これまで戦略経営論の分野で行われており, とくに近年, ダイナミック・ケイパビリティ・フレームワーク(DCF) として発展を遂げつつある。DCFは, 経営者による戦略的意思決定にもとづき, 企業が資源ベースを活用し, レントの保護に向けて水平拡大を行うという含意を与えている。さらに, 経営者による資産のオーケストレーションに注目し, 組織が意図的に資源ベースを創造・拡大・修正する能力としてダイナミック・ケイパビリティを定義する。DCFは, 経営者が市場と比べて有効に内部資源を活用できるという仮定を採用する。
しかし, このような議論は, 経営者の帝国建設や保身が多角化の動機となる, そして事業の多角化によって組織内ではインセンティブの歪みが生じるため, 多角化企業は非効率になるだろう, という金融経済学の見解とは矛盾する。従来の戦略経営論的な組織ケイパビリティの研究は, 経営者や組織内にまつわる一連のインセンティブ問題を分析の中心にすえていないため, 前述のような多角化にたいする見解の食い違いが生じると考えられる。
組織ケイパビリティの発展を導くには, 経営者による優れた意思決定が不可欠である。だが, 経営者の意思決定が効率的に行われないのであれば, その軌道修正を迫り, 組織ケイパビリティを発展させるメカニズムとして, コーポレート・ガバナンスが重要な意味をもちうる。こうしたガバナンス機能は, 組織ケイパビリティの分析に際して導入しなければならない要素である。さらに, 組織内で効率的なケイパビリティ移転を実現するには, 内部組織のインセンティブ問題を理解する必要もあろう。
This paper highlights the limitations of the capabilities view in governance.
The view underscores the role of governance mechanism in aligning incentives within a firm.
In particular, the dynamic capabilities framework, which can be taken as a promising field in the strategic management literature, adopts the assumption that managers have comparative advantage over markets in allocating resources and capabilities effectively because they are entrepreneurial and creative enough to engage in asset orchestration for firms' value creation and value capture.
The paper regards this too simplistic and thus argues that the capabilities view should take into account that governance functions as a facilitator of developing organizational capabilities by solving a set of issues due to incentive misalignment.
This means that the enduring gap between organizational economics and the capabilities view should be filled by trans-disciplinary research efforts.
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