【目的】本研究の目的は, ライブラリアンシップに関わる批判的観点の一つであるジェンダー(文化的性差)に着目し, 図書館史におけるジェンダー研究の分析を通じて, 批判的研究の枠組みを検証することである。Michael H. Harrisが民主主義機関としての図書館にかかわる批判的視座を提示したのは1970年代であり, その後Harrisの"修正解釈"を踏まえた批判的な視点を基盤とする新たな図書館史研究が展開されるようになった。批判的研究は研究対象となる事象を階級, ジェンダー, マイノリティといった特定の切り口から再検証し, 再構築していくことを目指している。
【方法】批判的図書館史研究の系譜の中にジェンダーを対象とする研究を位置づけるために, アメリカ図書館史研究における図書館女性研究の先行研究の分析を行なった。さらにこれらの文献にあらわれるジェンダーの概念が, 公共図書館研究に与える意義について検討した。
【結果】先行研究を分析した結果, 図書館実践という地平に, 男性図書館員, 対向軸としての女性図書館員・女性支援者・女性利用者を配置する布置は, 主流の視点からの分析に偏っていた従来の研究方法に, 新たな分析の枠組みを与える可能性を有していることが明らかになった。最終的に公共図書館研究におけるジェンダー概念への着目は, 図書館にかかわる主流文化・周縁文化の捉え直しを意味し, 図書館をめぐる文化政治的構造を再考するための手掛かりとなることが示された。
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