本研究課題の2年目である本年度は, 当初の計画では十世紀以降の古記録類や平安期の仏教説話集の研究も進める予定であったが, 前年度に入手できなかった『東大寺諷誦文稿』(以下, 『諷誦文稿』)のコロタイプ版を入手することができたため, 第一に『諷誦文稿』の史料論的考察を更に深めることを最優先して行った。その成果は上代文献を読む会例会にて報告し, ①『諷誦文稿』の「誓詞通用」という法会の誓願を行う次第と, ②「釈迦本縁」・「慈悲徳」という次第について考察し, ①から『諷誦文稿』から二系統の法会の存在を推定できること, ②からは, 二つの次第が『諷誦文稿』の利他という大乗仏教の本質について語る次第であったことなどを指摘した。
第二に, 古代地域社会の法会の機能と官大寺僧の活動について, 古代交通史研究会第19回大会にて報告した。具体的には八世紀後半から九世紀前半における地域社会の寺や堂などの仏教施設について, (1)官大寺僧や在地有力者層の福田思想の実践の場として位置づけられていたこと, (2)その付属地にある樹や林の機能などから, 古代の貢調運脚夫の交通を救療的側面から支える機能を有していたこと, (3)そこでの法会は, 道中で亡くなった運脚夫の霊魂を救済・鎮魂するとともに, 法会での運脚夫への施物も含めて行われていた可能性を指摘した。
その他, 古代的・中世的仏教儀礼の要素を残す東大寺二月堂修二会及び春日若宮おん祭りの調査により, 宗教儀礼の芸能化についての理解を深めた。また古代地域社会での法会と関わる『日本霊異記』の道場法師系説話の舞台の一つである飛鳥寺周辺の関連地の実地検分を行った。
以上のように, 八・九世紀の仏教儀礼について多角的な観点から研究を進めることができた。今後はこれまでの研究を更に深めるとともに, 十世紀以降の仏教儀礼関係史料も含めた考察を進めていきたい。
This year, the second year of this research project, I mainly conducted research on two subjects. First, I focused on the study of historical materials "Todaiji fuju monnkou (『東大寺諷誦文稿』)"and pointed out two new historical characteristics in them. Second, I reviewed the Buddhist facilities of ancient Japan's community and the ritual there. As a result, it became clear that Buddhist facilities in local communities had the function to support traffic of people carrying taxes to the capital, and that Buddhist rite there was closely related to salvation of poor people. Both of these achievements were reported at academic conferences and research societies.
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