心臓の形態発生は, 胎生初期に原始的な形態を形成してから成体に至るまで連続的に進行し, その間, 間断なく収縮を繰り返し, 心拍出機能を維持している。休みなく筋収縮を繰り返す心筋は, 膨大なエネルギーを連続的に消費する組織でもあると言える。成体の心室筋細胞におけるエネルギー代謝機構は, 主にミトコンドリアの酸化的リン酸化に依存し, 酸素を消費してATPを生産する仕組みであるために, 酸素が十分量存在することが拍動の維持に必須の条件である。一方, 胎生期の細胞では, 細胞内グリコーゲン濃度やその他の解糖系内代謝物質•酵素活性など成体の細胞とは大きく異なり, 低酸素環境下でも心臓収縮の維持が可能である。しかしながら, 胎仔と成体の心室筋細胞におけるエネルギー産生機構の違いが及ぼす影響や, 低酸素環境での活動の維持に重要な役割を果たす因子の特定については, 未だ十分に解明されていない。本研究では, 解糖系経路を組み込んだ包括的心室筋細胞モデル(Kyoto model)を用いて, 低酸素環境下での胎生期•成体における代謝の再現を試みた。その結果, これまでの研究では重要視されていなかった細胞内リン酸濃度の重要性が示唆された。反して, 解糖系のエネルギー源であるグリコーゲンやグルコースの影響及び解糖系内の酵素活性量などの影響は小さく, これまでの研究での報告を覆す可能性がある新たな示唆を得ることができた。以上の結果は, 胎生•成体期で異なるェネルギー代謝機構への理解に繫がる第一歩となると期待している。
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